開幕戦の舞台はバーレーンとなった。バーレーンは昨年11月にも同じレイアウトでレースをしたばかりで、各チームは記憶に新しい状態で開幕ゲームに挑んだ。
昨年のレースを少し振り返ってみよう。各チームのレース戦略は以下の図に示すとおりで、ソフトを使ったドライバーは4人、うち2人はレース終盤で予定外のソフトでのスティントだった。バーレーンはトラクションリミテッドでリアへの負担は大きく、路面も粗いのでタイヤに与えるダメージはさらに増える。そのため、ソフトを使った戦略は取りづらく、各チームはハードとミディアムを中心とする戦略を立てると思われていた。

しかしレースウィークがスタートすると、その様相は変わっていった。金曜日の走行後ピレリは日曜日の気象状況について、金曜日のコンディションから10℃下がると言ったのだ。これで各チームはソフトの使用も視野に入れて準備を進めることになった。
そして予選は去年以上にタイトな争いとなった。Q2ではセルジオ・ペレスと角田裕毅がミディアムでのアタックを試みるが、いずれもラップをまとめることができず敗退した。今回はソフトとミディアムの差が0.9秒とピレリが予想されており、それを考えればソフトを使えば両者はQ3進出はできただろう。しかし、レッドブルやアルファタウリはレースでのミディアムのアドバンテージを考慮してソフトでのアタックはしなかった。
逆にソフトを使ってでもQ3進出を仕掛けたのは、フェラーリやマクラーレンだ。昨年のバーレーンでは、マシンパフォーマンスが低くてもレース中にポジションを失うリスクを考えてミディアムでのアタックをしたチームが多かった中、今年はソフトを使うチームが増えた。結果的には期待通りQ3に進出できた2チームだが、この効果はあったのだろうか。
下は今回のドライバーの各スティントのタイヤの使用状況をまとめたものだ。注目すべきは第1スティントの長さだ。2ストップの戦略を取ったドライバーの多くは13周目前後でピットインしているが、ソフトでスタートしたドライバーもそのあたりでピットインを迎えている。その後はミディアムとハードを使ってレースを戦い抜いたがこれだけを見ればソフトとミディアム、それぞれの第一スティントに関してはあまり大きな違いは見られなかった。

下のラップタイムを見ても、メルセデスとマックス・フェルスタッペンとそれ以外で大きな差はあるものの、コンパウンド違いによるギャップはあまり見られなかった。その中でライバルとの差を見せつけたのは、ペレスや角田だった。

両者はスタートで大きく順位を失い、グリッドよりもさらに後方からの戦いとなったが、レース全体を通して高いペースを保って、最終的にはグリッドポジションを上回る結果を残した。この2人の強さを大きく示す影にはスティントの使い方が大きく影響したと考えられる。
ペレスや角田は後方に沈んだことで、ポイント獲得のためには大きく順位を上げることが必要だった。一度に大きく順位を上げるのに必要なことはクルマの強さもあるが、戦略面でも工夫したものが必要になる。つまり、ライバルよりも何周もあとにピットインするオーバーカットをしたり、ライバルよりも先に入るアンダーカットが必要になる。今回この2人はこの戦略を状況に分けて使い分けていた。
ペレスはオーバーテイクをしながら順位を上げていき、前方のクルマが15周前後でピットインしていく中、一人コース上に留まり中段の先頭に立ってクリーンエアを獲得しプッシュしていた。下のギャップグラフが示すように、15周目にカルロス・サインツがピットに入ったあともグラフが右肩上がりを示しているのが、その力強さを表している。つまりこの瞬間はトップのフェルスタッペンよりも速いペースだったのだ。バルテリ・ボッタスが17周目でピットを終えると、ペレスの後方に下がった。これでフェルスタッペンに対する壁となって、チームメイトを助ける役目も果たした。

第2スティントの終盤も同様に、第1スティントで生み出した他車とのタイミングのズレを生かして、ライバルよりも5周あとにピットインすることで、終盤のタイヤのタレを小さくし、コース上でダニエル・リカルドや、シャルル・ルクレールのオーバーテイクに繋げた。フォーメーションラップ中の突然のトラブルでピットレーンスタートになったが、それを見事に帳消しにするパフォーマンスを戦略の合せ技だった。
一方角田は、第一スティントはペレスと同様にオーバーカットで前車との空間を生み出そうとするも、タイムに伸び悩みスティントを伸ばすことができなかった。第2スティントはペースの遅いアルピーヌに付き合わされる格好となり、この段階ではポイント獲得は厳しい状況だった。
チームは前方から2回のピットストップを終えたフェラーリやマクラーレンに頭を塞がれる格好になるのが見えていたので、思いっきって早めにピットインを決断した。ピットアウト後もベッテルやキミ・ライコネンが前方に壁となるシーンはあったが、あっさりと追い抜き、ペースアップできた。このチームの好判断が角田に追い風となり、最終的にはタイヤのタレに苦しむランス・ストロールも捉え、デビューレースを9位で終えることができた。
角田の強みである勝負強さとチームの的確なタイミングでの戦略が相まってこの成績を残すことができた。フランツ・トストもこの働きぶりには絶賛しており、「角田はミディアムでもハードでも素晴らしいラップタイムをマークしてくれた。9位はこの働きにふさわしい結果でキミやランスなどと素晴らしい戦いを見せてくれた」と喜んでいる。
今年のバーレーンは強風も吹き、温度変化も大きいコンディションでチームも難しい判断が求められるものだったが、逆風の展開にもめげず、結果を残したレッドブルやアルファタウリには今後も期待せざるをえないだろう。一方で堅実な戦略でマクラーレンやフェラーリもポイントを獲得しており、今回のレースはこれからの戦いの激しさを予感させるものだった。
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