毎年バーレーンでのF2はタイヤマネジメントが戦いの鍵となり、各ドライバーのタイヤのケアの腕を披露するレースだ。シャルル・ルクレール、ランド・ノリス、ニコラス・ラティフィがここでF2時代に優勝をしF1に上がっていることも考えると、チャンピオンシップに関係なくここでの優勝は大きな意味を持つことが窺える。
今年のレース1も戦略とタイヤマネジメントが勝敗を大きく分けたレースとなった。チャンピオンシップを争う、ミック・シューマッハー、カラム・アイロット、角田裕毅に焦点を当ててレースを振り返ろう。
スタートタイヤはポールポジションのアイロットがミディアムを選択し、シューマッハーと角田は予選で後方に沈んだこともあり、ハードでのスタートとなった。
まずは各車のギャップを以下のグラフで見てほしい。横軸は周回で、一番上のラインがトップの位置を示し、下に行くほどギャップが広がっていく。

各車のラップタイムについては下に示すグラフを見ていただきたい。横軸は周回で、上に行くほど速いラップタイムを記録していることを示す。

スタートでアイロットがフェリペ・ドルゴビッチに抜かれた後、トップを奪い返すために序盤は激しく攻め込む様子が見えたがこれが仇となった。5周目を過ぎたあたりからドルゴビッチとのペースが約0.5秒ずつ開き、マーカス・アームストロングとシューマッハーに抜かれて以降はミディアムで安定したペースを保つだけでも大変な状況になった。これで11周目までドルゴビッチとの差は8秒にまで膨らみ、このレースでの優勝戦線に対しては厳しい状況となってしまった。
第2スティントがハードであったため、第1スティントでハードを履いていた人に対してアンダーカットを決めることができた。しかし序盤で痛めたタイヤの代償は大きく、終盤のペースの落ち込みは激しかった。3位のダルバラとは大きなギャップがあったため、順位を失うことはなかったものの、最終的にはドルゴビッチと14秒差を付けられ完敗という形になった。
一方、ハードでスタートしたシューマッハーは抜群のスタートを決めて、10位から5位にまでジャンプアップした後、アイロットとアームストロングを交わして、3位にまで付け、優勝も狙える位置にまで上がった。3位に上がって以降のペースは素晴らしく、タイヤを労って走っていた。それはラップタイムを示すグラフからも読み取れるように、シューマッハーは第1スティントで常に上位のタイムをマークし、安定したペースを保っていた。そしてピットのタイミングもミディアムが最後の周回まで機能させられるように、19周目まで引っ張った。ここはシューマッハーのマネジメントの高さが窺えるスティントであった。
ただしシューマッハーに関しては優勝争いができたにも関わらず、それをみすみすと逃すミスがあった。それはピットのタイミングだった。ギャップのグラフを見てほしい。今回のピットでのロスタイムはピットでの作業時間にも左右されるが、理想的なピットストップを行えたとすると30秒程度だ。
シューマッハーはミディアムで走行できる距離と、トップを逆転可能なギャップを考えて19周目にピットインする戦略を取ったが、この頃にはタイヤの劣化が厳しく、逆に先にピットインしていたヨハン・ダルバラやアームストロングのペースと相まって元の順位に戻ることができず、アンダーカットを許してしまった。
ピットのロスタイムが30秒であることを考えると、18周目にはちょうど誰にも邪魔されない空間で復帰できた可能性があり、プレマにとってはそこが反省点となるだろう。結果としてはこのピットアウトでダルバラの後ろに出たが、最後まで抜くことができずアイロットに必要以上にポイント差を縮められてしまう結果となった。
一方角田もハードでスタートしたが、こちらは最後尾からのスタートともあって終始バトルしながらの展開となったがクリーンエアを得られていたシューマッハーと同じだけ周回をハードでできたのが素晴らしい点だ。ラップタイムを見ると、集団に付き合わせる形で突出したタイムはなかったが、他車がピットインを終えて空間ができると再びペースを上げて、18周目には1分49秒075をマークしており、同じ戦略を取っていたシューマッハーより約1.5秒速く、いかにタイヤを労りながら順位を上げていたかが分かる。
角田は一番最後にピットインした利点を生かして、タイヤマネジメントに苦しむドライバー9人をオーバーテイクしていった。第1スティントでのタイヤマネジメントもそうだが、すべてのドライバーを一度で攻略したのも評価できる。そのためラップタイムのロスやタイヤへのダメージが小さくでき、レース全体を通して好循環を自ら作り上げた。最終的には22位から6位にまで順位を上げてレース2では3位スタートとなった。
レース2は23周レースとなるが、実はこれだけのスティントをレース1で走行したのは、ロバート・シュワルツマンとアーテム・マルケロフのみだ。両者は序盤早々にタイヤを痛めたためにこのようなスティントの分け方となったが、ギャップグラフから見ても分かるように、第2スティントの終盤でも大きくペースを落としている。今度は全車がそのロングスティントで挑むことになるが、今回以上にタイヤマネジメントが鍵になるレースとなる。F1を目指すドライバーたちが乗り越えなければならない課題は様々あるが、現代のレースにおいてタイヤマネジメントはセールスポイントの一つだ。それを今回のレースでどこまで発揮できるか、チャンピオンシップの動向と合わせて見守りたい。
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