前回のベルギーGPで始まったピエール・ガスリーの快進撃は、イタリア・モンツァでも大きな成果を生み出した。前回同様、今回も少しばかりの幸運があったレースではあるが、ガスリーの為せる技がなければこの優勝は果たせなかった。今回はその為せる技について見ていこう。
まずはレース全体を簡単に振り返ろう。ガスリーは10位スタートでタイヤはQ2の時に使用したソフトを履いていた。スタートでも順位を上げ下げすることもなく、いつもどおりチャンスを虎視眈々と狙う単調な第一スティントだった。
しかし18周目に突如展開が変わった。ケビン・マグヌッセンがPUのトラブルでピット入口直前にマシンを止めたのだった。そこで最終コーナー出口からピット入口にかけて黄旗が提示され、クルマを回収するのにVSCまたはセーフティカーの導入の可能性があった。その時、チームはVSCやSCを待たずしてガスリーをピットに呼び込むギャンブルへと出た。VSCやSCになれば通常よりも10秒短くピットでのロスタイムを減らすことができる一方で、黄旗だけで終了すれば早めにピットに入ったことにより他者よりも履歴の長いタイヤでレース後半を戦わなければならず不利な展開になり得た。しかしマグヌッセンのクルマはマーシャルの手でピットレーンへと押して回収することになったため、セーフティカー導入とピット入口がクローズされるという判断がレースコントロールによってなされた。
これでガスリーはピット入口がオープンになってからピットインした他者を一気に追い抜き、一時14位だった順位を3位にまで押し上げた。そして一度はレースがリスタートするも、直後にシャルル・ルクレールがパラボリカでクラッシュを喫し、再びセーフティカーが導入された。同時にタイヤバリアの修復の必要もあり、作業に時間がかかると判断されたため、赤旗が提示された。これで各車は再びタイヤ交換を行うことができ、ガスリーもペースや履歴が長いハードからミディアムへと交換できた。
また赤旗中には、ルイス・ハミルトンがクローズされたピットレーンに入ったとして10秒のストップアンドゴーペナルティが課されるという発表もあった。これにより事実上、赤旗までスティントを引っ張っていたランス・ストロールとセーフティカー時にタイヤ交換をしたカルロス・サインツとの勝負へと移った。
ガスリーは再スタートで、ストロールをターン1で交わし、すぐに他者を引き離した。ガスリーはレース後このように語っていた。
再スタートでは、後ろのクルマに対してトウをを使わせたくなかったし、誰にも前に行かれたくなかったからとにかくプッシュしたよ。最後の5周はすごく大変でタイヤも完全に終わっていたんだ。コーナーごとにカルロスがギャップを縮めてくるのが見えて、とにかく死物狂いプッシュしたよ、そうでもしなければ勝てなかっただろうね。ターン1でのトラクションには苦しんでいたので、カルロスに対しては1個目と2個目のシケインでチャンスがあると思ったんだ。でも彼も十分には近づけず、僕のミディアムタイヤは終わっていたけど、良いタイミングでチェッカーが振られたね。
https://www.fia.com/news/f1-2020-fia-formula-one-world-championship-italian-grand-prix-sunday-press-conference
キーポイントはリスタート後の数周だった。モンツァはスリップストリームの効果が大きく、たとえ相手をDRS圏外に置いていても、スリップストリームですぐに追いつかれてしまうという難しさがあるので、何としても早く引き離さなければチャンスはない。それをガスリーはF2時代の経験を思い出しながら実践したという。
下のラップタイムグラフを見てみよう。横軸が周回数、縦軸をタイムにしたもので、線が上にあるほど速いことを意味する。ここで注目したいのは、29周目から35周目までだ。ガスリーが言っていたようにここでのラップタイムはサインツよりも0.5秒近いペースで差を広げており、それが良いクッションとなっていた。逆にサインツはアルファロメオ勢やストロールを追い抜いていかなければならなかったので、それ以上にプッシュする必要もあった。またサインツのタイヤはセーフティカー時に交換したミディアムで、それもガスリーよりも4周古いタイヤであることもハンデとなっていた。彼自身もタイヤに苦しんでラリーのように走らなければならなかったと語っているので、いかにサインツも厳しい状況であったかが分かる。これによって34周目時点では4.3秒にまでギャップを広げたことが最後の0.415秒差に対して大きな決定打となった。

セーフティカーや赤旗といったレース展開も味方したところはあるものの、ガスリー自身がそれぞれの展開をきちんと把握し、やるべきことをやった成果が今回の結果を生み出したことが伺える。予選では0.5秒も付けられたガスリーだったが、サインツとの直接対決でエネルギーの使い方をうまくコントロールし、最後まで戦える余力を残せたところに彼の成長ぶりが伺える。ベルギーでも展開に合わせた戦いができ、今回も同じようにできた。ガスリーがいよいよトップドライバーになるとき瞬間が近づいたといっても過言ではないだろう。
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