F1 2020 第7戦ベルギーGP -高速3連戦の台風の目はルノー! その武器は直線重視のセッティングとタイヤへの優しさ

 ベルギーGPではルイス・ハミルトンがF1最多勝にあと3勝にせまる優勝を収め、2位にはバルテリ・ボッタス、3位はマックス・フェルスタッペンと、現在の勢力図をそのまま示した格好になったが、4位以下には大きな変化が生まれた。それはここまでマクラーレンやレーシングポイントの陰に隠れて、存在感を示すことができなかったルノーのダニエル・リカルドが4位に入ったことだった。今回のリカルドの4位はどこで生まれたのか考えてみよう。

 リカルドの躍進は予選から始まっていた。ルノーは高速サーキットでの3連戦に備えて、直線を重視したセットアップを金曜日から持ち込んでいた。FP2とFP3ではエステバン・オコンがセクター1で全体ベストを記録しており、そのポテンシャルの片鱗を見せていた。そして予選はそれを具現化するかのように、予選ではオコンが4位、リカルドが7位、さらにセクター3でもリカルドが1位、オコンが2位と、いずれも全開率が高い区間で力強い速さを見せていた。直線重視だとダウンフォースも削られるので、コーナーリング性能は落ちる傾向があるが、ルノーの場合はセクター2でもリカルドが6位に入って健闘ぶりを見せた。これが予選で4位を獲得した要因の一つと言っていいだろう。

 期待通りの成績を収めて4位グリッドを獲得したリカルドはレースでもその力強さを見せた。レースでリカルドは「毎ラッププッシュしたよ。エネルギーの面でも常に全開を心がけて、毎ラップはできなくても全力を尽くしたよ」と語っていたように、一度たりともペースを緩めない攻撃的な印象を受けた。レース中のラップタイムを見てみよう。横軸をラップ、縦軸をタイムにしている。

 第1スティントではトップ3に大きなペース差を付けられるが、全体では4番目のペースをしっかりと維持し続けていたことがわかる。さらにすごいのは第2スティントだ。セーフティカーが開けてからは第1スティントの状態が継続していたが、上位勢がタイヤマネジメントを強いられる状況になってくるにつれて、ペース差は縮まっていった。むしろ特に25周目以降はさらにペースを上げてタイヤの劣化をまったく感じさせない状態であったことが窺える。最終的には、33周走ったハードタイヤでファイナルラップにファステストラップを記録するという離れ業を見せた。

 各車がタイヤの摩耗に苦しみ、シルバーストンの悲劇の再来を恐れる中で、ルノーは直線重視のセッティングでダウンフォースを削ってもこれだけのパフォーマンスを見せられた要因はどこにあるのだろうか。そのヒントは、レース各所で聞こえた無線にあった。

 その一つはオコンに対して10周目に出された指示だ。

ターン18のリフトアンドコーストは僕らには要らないからね。

 ターン18は最終のバスストップシケインの入り口のコーナーだ。そこでのブレーキングに対して、スロットルだけを緩めてクルマを惰性で走らせるリフトアンドコーストが不要というものだ。通常リフトアンドコーストは燃費を稼ぐだけでなく、急減速を少なくすることでタイヤへの負担を減らす効果が期待できるものだ。そのリフトアンドコーストが不要ということは、燃費に大きな問題がないのと同時に、それなりにプッシュできる状態つまりタイヤに対してもある程度負荷をかけても今後の戦略に支障がないことを意味していることが考えられる。

 またリカルドも34周目にタイヤの状態を聞かれてこのように答えていた。

ハードタイヤは良いよ。これが100%のペースだ。

 34周目はまだ全体ベストのペースではないにせよ、フェルスタッペンを上回るペースで、タイヤのデグラデーションも見られない状況だった。その時のペースが本人から100%のペースと言われたということは、これ以上出ないタイムではあるものの、タイヤのコンディションからしてこれを続けられる状態でもあったことが窺える。実際、この34周目以降にさらにペースを上げて、グラフも右肩上がりになっていることから、この時点でタイヤへの不安はまったく無かったことが考えられる。同時期の無線を聴き比べるとフェルスタッペンが「バイブレーションが酷くなってるような気がする」と訴えており、すでにタイヤへの強いケアが必要であることを示していた。これを考えるとタイヤへの優しさという観点からも、レッドブルよりも上を行っていることが考えられる。

 直線重視のセッティングでありながら、タイヤへの優しさも両立させたルノーは4位を獲得し、コンストラクターズチャンピオンシップでもフェラーリまで2ポイント、3位のマクラーレンまで9ポイントと迫る状況となってきた。今後のレースでも高速コースと言われる場所が多くある中で、今回のルノーが見せた強さはマクラーレンやレーシングポイント、あるいはレッドブルにとっては脅威となるだろう。リカルドはレース後のインタビューで次のように語っていた。「僕らは高速コースを得意としていることが分かったからモンツァでも速いと思うよ」。この3連戦、鍵を握るのはルノーであることは間違いなさそうだ。

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