今回はイギリスGPの中団勢の戦いに注目してみよう。中団勢で最高位グリッドに付けたのはランド・ノリスだった。その後ろはランス・ストロール、カルロス・サインツ、ダニエル・リカルド、エステバン・オコンと今のチャンピオンシップをそのまま表したグリッドになった。金曜日のレポートでもお伝えしたように、この3チームのペースはかなり接近しており、イギリスGPでは激しい接近戦が予想されていた。
レースは2回SCが導入されたこともあって、スティントの前半は金曜日の様子そのままに進んだ。抜きにくいシルバーストンをそのまま具現化したように、各車の追い抜きはなく、レースは膠着状態が続いていた。
2回目のSCが導入した時は各車がハードへのタイヤ交換を選択した。しかしこれも各車が同じタイミングで入ったことによって、大きな順位変動は無かった。このままレースが終わると思われたが、中団争いに変化が見え始めた。
それは37周目以降のストロールペースによって現れた。下にあるラップタイムとギャップのグラフを見てほしい。前方にいたリカルドに対して突如ペースが乱れだし、ギャップを離される展開になったのだ。たちまちリカルドに対して1周あたり0.5秒ほど遅いペースにまで落ち込み防戦一方になってしまった。ストロールは「がっかりだけど、よくわからないんだ。変な感じだった。序盤は競争力があったんだけど、後半になって悪くなったんだ。他と比べてもバランスが悪くて何が起きたのかよく分からないんだ」とレース直後に語っており、本人も受け止めがたい状態に陥っていたことが窺える。これで46周目にオコン、48周目にはピエール・ガスリーに立て続けに追い抜かれ、中団争いの戦線から離脱した。


このペースの低下については、レース後原因が分からなかったと話していたが、今週すぐに解決できないと今後のチャンピオンシップにも影響しかねない状況だ。今週末は先週よりも1ランク柔らかいコンパウンドが使用されることもあり、タイヤマネジメントもより厳しくなるので、レーシングポイントに大きな課題が残った一戦となった。
中団勢のトップ争いに話を戻そう。ストロールの戦線離脱によって、中団トップ争いはサインツ、ノリス、リカルドの3者に絞られた。マクラーレンもストロールほどではないがペースの落ち込みが見られ、36周目以降はリカルドが中団勢の中で常に最速のペースを維持していた。リカルドはじわりじわりとマクラーレンとのギャップを縮め、ラスト3周となった49周目のストウでレッドブル時代の深いブレーキングを彷彿とさせるような形でノリスに対してオーバーテイクを決めた。そしてその後、サインツの突然のパンクもあってイギリスGPの中団トップを獲得した。
この展開にリカルドは「終盤のペースには驚いたよ。レースの後半は左フロントに苦しみ始めていて、集団もだんだんと密集していたんだ。だから僕はハードタイヤで集団を抜けるほど速くは走れないと思っていたんだ。でも一度クリーンエアを得たらプッシュできるようになったんだ。そしたらマクラーレンが近づいているのと、彼らがシャルル(・ルクレール)に近づいているのが見えたんだ。だから僕にはペースがあることが分かったんだ」
リカルドが語っていたクリーンエアとは、ロマン・グロージャンが唯一2回目のSCでもピットに入らず粘っていたが、彼がピットインしたことで空間ができたことを指し、そこからプッシュでき始めたということだ。実際、グロージャンを含めた集団の状態では、各車がDRSを使える状況でもあったため、状況的にも抜くのは難しくさらにはタイヤマネジメントに対しても決して楽な展開ではなかったと思う。しかし、一度クリーンエアを獲得したことでリカルドにとって追い風となり、一気にマクラーレンを交わせたことは今後にも期待が持てる結果と言えるだろう。各車がタイヤの摩耗に苦しんでいる状況であっても、ルノーはその影響が小さく、最後まで戦える状況だったことはデータからも見えている。リカルドは続けてこのように語っている。
シャルルまで1.1秒であと一歩で表彰台だったけど、チームにとって4位と6位は良い結果だよ。来週はさらにタイヤがソフトになるから、さらにエキサイティングなレースが見せられると思うよ」タイヤマネジメントが厳しいレースの中で今回、ルノーが見せたタイヤのライフの長さは、次戦にも繋がるものでルノーの躍進は続くだろう。
https://www.formula1.com/en/video/2020/8/Daniel_Ricciardo_happy_with_Renault%27s_%27big_points%27.html
一方のマクラーレンはサインツが、左フロントのパンクが起き、ノリスも4レースで5位以上が3回という素晴らしい成績を残しているが、今回ルノーに対して終盤逆転されたことは、気がかりとなる結果になっただろう。
難しいレースだったよ。今日の僕らには強いペースが無かったんだ。ルノーは僕らよりも速かったね。タイヤのライフのせいで、期待していたほどプッシュもできなかったんだ。僕としてはこれは最悪の結果ではないよ。今のクルマでは前のクルマと3,4秒しかないとダウンフォースが欠けているように感じるんだ。だから今のF1ではオーバーテイクが難しいんだ。TVを見てる人にとっては中盤は退屈だったかもしれないけど、ダニエルをずっと後ろに抑えるのは大変だったよ。僕はカルロスのために抑えなきゃいけなかったのと同時に、タイヤも守らないといけなかったから難しかったね。今日のルノーに対して僕らができることは本当に限られていたんだ。
https://www.formula1.com/en/video/2020/8/Sainz_says_’luck_hasn’t_been_with_me’_after_late_puncture_costs_McLaren_points.html
このようにノリスはレース後のインタビューで語っており、ルノーに対して守れる可能性がこれまでよりも低かったことが窺える。マクラーレンもレーシングポイント同様に、ペースには課題が残るレースとなったが、予選の速さを考えればルノーからしてみてもまだ強い競争相手と見ることができるだろう。
もう一つこのレースでピックアップしておきたいのはガスリーだ。今回、中団勢のトップ争いに加わることはなかったが、彼が記録したペースを見てほしい。ガスリーも他のチームと同様に2回目のSCでハードに交換し、レースしていたがそのペースを見ると右肩上がりに上昇し、最終的にはルノーの間に割って入るところまで線があり、全体のファステストラップでも7位に付けた。今回は11位スタートと後方からのスタートとなったために、不利な展開であったが、予選の位置さえ上がれば中団勢のトップ争いが行える可能性を見せた。これもこれからのレースで気にしなければいけないポイントになるはずだ。
今週もシルバーストンでレースが行われるが、タイヤは1ランク柔らかいものになり、各チームはすでに2ストップは確実に必要になる見解を示している。ピットの回数が増えると追い抜きのチャンスも増え、チームの戦略にも様々な幅が広がり、レースの展開に対して多くの可能性を持つようになる。各チームが今回のレースで得た課題をもとに、どのように戦うのか、激しい中団争いはますます目が離せなくなりそうだ。
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