開幕戦のオーストリアGPは、熱いコンディションで行われたレースだけあって、多くのサプライズが起きた。その中でも特にレース後の注目の的になったのはランド・ノリスだ。ノリスは予選で自身最高の4位を獲得し、さらにルイス・ハミルトンのグリッド降格によって、3位グリッドからスタートした。そこから度重なるバトルを戦い抜いて、F1史上3番目、イギリス人としては最年少の表彰台記録をもたらした。今回は彼が表彰台を獲得した秘密を、データや彼のコメント、そしてオンボードで見た彼の動きから分析していこう。
ノリスのレーススタートは緊張の連続だったという。スタートに関して、彼はこんな言葉をレース後に残していた。
スタート練習は全部ひどかったし、アンチストールに入ることもあったから、今日のレーススタートは震えるくらい緊張していたよ。でもマックス(・フェルスタッペン)がミディアムでスタートすることを知っていたから、チャンスがあることもわかっていたし、去年を振り返ればここで良いスタートを切っていたから、少し自信もあったよ。でもまたアンチストールに入れてしまうかもしれないと思って完全に自信を持っていたわけではないけどね。実際はマックスに比べて良いスタートが切れたし、バルテリ(・ボッタス)と似たようなものだったよ。これが僕にとっては十分だったし、その後のレースで必要な自信にもつながったよ。
今回のレーススタートを無難に乗り越えたことがノリスの活躍一因だった。スタートを切り抜けたノリスはさらにフェルスタッペンに対して仕掛け、非常に良い動きを見せていた。しかしそれもつかの間に、今度はペースの伸びに悩まされた。レース中の各車のラップタイムを見てみよう。

1stスティントの前半は、後方から来るセルジオ・ペレスにペースで上回れていて、前方のアレキサンダー・アルボンには1周あたりコンマ5秒離される状態が続き、まさに防戦一方だった。
26周目に1回目のピットストップで各車がピットに入り、順位を守ることができたものの、セーフティカー開けに再びペレスに攻められ、33周目に4位を奪われた。これで表彰台のチャンスは潰えたと思えたが、51周目に再びセーフティカーが導入された。これで離れていた前方とのギャップも一気に縮まり、さらにチャンスとなると思いきや、61周目のリスタートから再びペースに悩まされた。そのペースを見ると、チームメイトのカルロス・サインツにも及ばないペースで後ろから来たシャルル・ルクレールにも抜かれるという状態だった。窮地に立たされたノリスだったが、再びチャンスが訪れる。ペレスとハミルトン、それぞれに5秒ペナルティが課されたのだ。このときの状況についてノリスは次のように語っている。
最後の数周は、セルジオがペナルティを受けていることしか知らなかったし、僕はあのとき5位にいたから単純に4位がほしかったんだ。僕はペースがあって、セルジオがターン3で外側に行ったけど、僕はその瞬間にセルジオを交わすリスクはなにか、交わさないで順位をそのままにしておこうかと考えたよ。セルジオはペナルティを受けていたから、僕は自由に動けたけど、僕には良いペースがあったし、カルロスも後ろから迫っていたから、僕も攻めて前に行こうと思ったよ。僕がセルジオを抜いたときはまだルイスがペナルティを受けたことを知らなかったんだ。どちらにせよ僕はセルジオを抜けたことは良かったよ。抜いたことによってクリーンエアを得られたからね。これで僕はさらに加速することができたし、シャルルを追いかける体制に入れたんだ。でも彼を捕らえるには少し遠かったけどね。そして残り3周になったときにルイスが5秒ペナルティを受けたことを聞かされたんだ。だから残っていたエンジンモードを使って、トラックリミットの限界まで攻めたよ。クルマにとっては縁石を使うから過酷なことだし、下手なリスクを取るべきではないんだけど、そのときは特に心配事もなかったから、最後まで攻めることにしたんだ。ファイナルラップは本当に近づくためにあらゆることをしたよ。どんなことをしたかは忘れたけど、1秒以上もルイスとのギャップを縮められたことが大きかったね。僕はファイナルラップで表彰台を手に入れたんだ。もし僕が少しでも後ろにいたら、プッシュしきれていなかったら、ここにはいないから、クルマには本当に感謝したいよ。もしこれが去年の状態だったらこんなことはできなかったし、今日の結果は僕らの成長を示す機会にもなったよ。
ノリスの残り2周、ペレスを交わしてルクレールを追いかけているときの無線交信を聞いてみると次のような指示がエンジニアから飛んでいた。
<残り2周>
コントロールライン「シナリオ7、残り2周だ」
ターン2「イエローG2」
ターン3出口「ハミルトンとは6.5秒差、彼も5秒ペナルティを受けているぞ」
ターン8出口「ターン3までシナリオ7を続けろ、ターン1にオイル旗だ」
<ファイナルラップ>
ターン2「ターン3の立ち上がりでオーバーテイクを1回押せ」
ターン5「ターン8の立ち上がりでオーバーテイクを5秒間押し続けろ」
ターン8出口「全部出しきれ。最終コーナーの立ち上がりもオーバーテイクだ」
この短い間だけでも6回ものエンジンパワーに関する指示が飛んでいたが、オンボードに映るノリスの手を見る限り冷静かつ指示された操作を的確にすべて行っていた。ファイナルラップではセクター2とセクター3でこの日の全体ベストをマークして、自身初のファステストラップも記録した。まさにこれはノリスの冷静な判断ととっさの判断でペレスを大胆に交わした勇敢なドライブ、そしてチームの的確な指示のコンビネーションが相まって達成されたものであることがわかる。
さて最後にノリスは、最年少表彰台記録に関して、このように語っていた。
僕はそのような記録を破るためにここにいるわけではないんだ。この記録はハードワークをし続けてきたときや優勝したときのボーナスだと思うよ。だから今回のはおまけっていう感じかな。とにかくこの結果は僕がF1にいる目的が達成したということにはならないんだ。記録を破るためではなくて、勝って表彰台のてっぺんに立つことがやりたいことなんだ。記録を持つこともいいし、光栄には思うけど、それよりも僕は表彰台に立てたことが嬉しいしんだ。
ノリスの今回の表彰台はあくまでも通過点にしか過ぎない。しかし、ノリスが述べたように今回の表彰台は、これまでマクラーレンがやってきた開発やチームの努力の賜物で、その成果が遂に花を開きつつある。今年は短期決戦で、さらには去年以上のパフォーマンスを見せているレーシングポイントや、レッドブル、フェラーリといったチームも相手にしながらの戦いで非常にタフなシーズンだ。しかし、開幕戦で残したこの表彰台は、彼にとっても大きな経験値であり、今後優勝するために大事な要素となるだろう。今回のレースでよりノリスとマクラーレンの成長から目が離せなくなった。
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