今回は最近私が読んだハースの小松礼雄さんが書いた「エンジニアが明かすF1の世界」を紹介しよう。1年前にリリースされたものなので、既に読んだという人もいるかもしれないが、特にまだ読んでいないという人にはF1の面白さが凝縮されているのでおすすめだ。

この本で特徴的なのは、現役のF1チーフエンジニアが、自身で本を書いているということだ。雑誌やインターネットでは、エンジニアはインタビューを受けてそれに答える形で自身の仕事について紹介することが多いのだが、この本は実際にそこで働いている人が書いていることで、一つ一つの言葉にリアル感があり現場の様子も詳しく書かれている。またF1というスポーツについて初心者でも分かるように、レースウィークの流れやエンジニアの仕事について紹介しているのもおすすめできるポイントだ。
ここからは私が特に印象に残った内容をネタバレしない程度に2つ紹介しよう。まずセッティングに関する内容が充実していることだ。よくテレビ中継では、「アンダーステア」とか「オーバーステア」という言葉を耳にするが、その時に実際チームはどういう部分を修正しているのかが実例を示しながら書かれている。特に今のF1はシステムが複雑で、ラップタイムに影響する要因も多く、理解しにくいと思われるかもしれないが、ここでは基本的な項目に絞っているので難解なものはない。ここで知った情報をもとに、自分たちもテレビで「アンダーステア」や「オーバーステア」と聞くと、「あのパーツをいじったりしているのかな」と想像したりすることもできるので、少しF1チームの中に入り込んだ気分になれそうだ。
2つ目は小松さん自身のベストレースについて語られている章だ。小松さん自身が現場でエンジニアとして携わっていた時に、実際に経験したベストレースが書き残されている。小松さん自身が経験した話で、しかもレースエンジニアとしての体験なので、どうやってレースを動かして良い結果をもたらしたのか、レース中のターニングポイントがよく分かるように書かれている。ベストレースというと、いつもファン目線でインパクトの強いものがよく挙げられるが、エンジニア目線で見るとどのようなレースがベストレースとして挙げられるのか新鮮な気持ちで読むことができた。また過去のレースの裏舞台を知ったからこそ、小松さんが挙げていたレースをこれを読んだ後に見返して見るのもエンジニア目線で見ることができて面白いかもしれない。
何度も言うがこの本は、現場でエンジニアとして働く小松さんが書かれているので、一つ一つのことに臨場感があって、テレビでは見ることのできない世界に触れることができて、よりF1に魅力を感じることができた。また内容も初心者でも分かりやすいように書かれているので、「F1を見せたい友達がいるけど、ルールとかクルマが難しくてハードルが高い」とか「F1を見始めたけど戦略とか週末の流れをもっと知りたい!」という人には特におすすめだ。新型コロナウイルスの影響で開幕が伸びてしまったが、この機会にこの本を読んで、シーズンの準備を進めてみてはいかがだろうか。
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